スーパーのAI値引きとは?3社の事例と導入方法・効果の測り方

スーパーの惣菜売場で難しいのが、弁当や総菜を値引きするタイミングです。早く安くすれば売れ残りを減らせますが、その分利益も減ります。値引きを遅らせれば、売り切れずに廃棄する商品が増えるかもしれません。
そこで使われ始めているのが、過去の売れ方などをもとに「いつ、いくら値引きするか」を提案するAIです。広島市に本社を置くスーパーの藤三では、導入後、学生アルバイトも値引きを担当できるようになったと発表しています。[4]
AIが値引き額を提案しても、売場の残数確認やシール貼りは人が担う場合があります。導入方式を選ぶときは「売上データ」「売場の残り個数」「値引きシール」の3つを確かめると、自社に合う仕組みを絞り込みやすくなります。
| 自社の状況 | 最初に考えたい方法 |
|---|---|
| レジの売上は分かるが、売場に何個残っているかは分からない | 店員が残数を数える・商品をスキャンする方式から試す |
| 売上も在庫も、システムで継続的に把握できる | データ連携型も候補に入れ、入力作業が減るか確かめる |
表1:公開されたサービスの仕組みをもとに、編集部が整理した検討の目安です。[1][2][3]
フランチャイズ(FC)加盟店がある場合は、方式を比べる前に、値引き後の価格を最終的に誰が決めるのか確認します。[9]
スーパーのAI値引きとは?仕組みと店員の作業
閉店前、惣菜担当者は弁当の残り個数や売れ行きを見て、値引き率を決めます。AI値引きを使う場合は、システムが値引き額を提案し、店員が内容を確認してシールを発行・貼り付ける流れになります。
サトーには商品を読み取って値引きシールを発行する仕組みがあり、シノプスには店員がAIの提案を変更できる機能があります。[1][2] 値引き額を考える作業をAIが支え、店員は売場の状況を確かめながら商品に反映する。 これが基本的な仕事の分担です。
図解:AI値引きの流れ
- データ売上・商品
- 在庫残数を確認
- AI値引きを提案
- 店員が確認発行して貼付
- 記録販売・廃棄記録
需要や時間に応じて価格を変える考え方は「ダイナミックプライシング」と呼ばれます。「閉店2時間前は一律20%引き」と決める方法もありますが、商品ごとの売れ方を見て値引き額を変えたい場合に、AIが選択肢になります。
AI値引きシステムの選び方|売上・在庫・シール発行
AIの機能を比較する前に、現場で毎日使えるかを確認します。見るべきポイントは、売上データ、売場の残数、シール発行の3つです。
① AI値引きの仕組み|判断に使うデータ
AIが参考にするデータの一つが、レジに残る「何が、何時に、何個売れたか」という販売記録です。情報システム部門に、店舗ごとの販売記録を取り出せるか確認します。製品によっては、商品の分類や重さの扱い、特売の予定、廃棄の記録も必要です。[2]
データの渡し方にも違いがあります。MiseMiseは、最初にデータをまとめてアップロードする方法と、自動で連携する方法を案内しています。[3] 本部で決めておくのは、誰が、どの頻度でデータを更新するか。店舗数が増えても続けられる運用かどうかが判断材料になります。
② AI値引きに必要な在庫・残数の確認方法
レジの記録で分かるのは売れた数です。廃棄の登録漏れなどがあれば、システム上の在庫と売場に残っている数は食い違います。
サトーは、店員が商品をスキャンして残数を確認する方式と、データ連携で在庫を把握する方式を案内しています。[1] リアルタイムの在庫連携を前提とする製品もあります。[2]
売場で毎回数えるのか、システム上の在庫を正確に保つのか。 どちらの方法が夕方の忙しい時間に合うか、店舗運営の担当者と確かめます。売上データをAIに渡せることと、残数を正しく把握できることは別の条件です。
③ AI値引きシステムによるシール発行と貼り付け作業
AIの提案をそのままプリンターへ送れるなら、値引き率を入力し直す作業を減らせます。シールを商品に貼る作業は続きますが、発行までの流れは短くできます。
別のプリンターへ数字を手入力する運用では、商品の読み取りが追加され、かえって時間がかかる場合もあります。[1][3] 導入試験では、商品を手に取ってからシールを貼り終えるまでを測ります。読み取り回数、所要時間、レジでの精算、機器が止まったときの対応まで、実際の売場で確かめます。
スーパーのAI値引き導入事例3選|藤三・サミット・イオン
導入事例を比べると、藤三では値引きを担当する人が増え、サミットでは操作画面が改善され、イオンリテールでは残数入力の作業が残っていました。
藤三|店長だけに頼らず、アルバイトにも任せやすく
広島市に本社を置く藤三では、惣菜の値引きは店長や副店長など経験のある人が判断していました。売れ行きや天候から適切な値引き額を考えるには、現場で培った経験が必要だったためです。
導入した仕組みでは、商品をスキャンするとAIが値引き額を提案し、その金額のシールを発行します。最初は3店舗で試験し、後に全26店舗へ展開。2026年3月の共同発表では、学生アルバイトも値引きを担当できるようになり、店長らが管理業務に時間を使いやすくなったと説明しています。[4]
藤三は全店導入の前に、自社のデータで採算を試算していました。利益額や計算条件の詳細は公表されていませんが、サトーの導入事例資料には、商品のスキャンという追加作業を含めても営業利益はプラスだったという藤三側の評価が掲載されています。[10]
サミット|忙しい売場でも使える画面に改善
サミット向けのAI値引きシステムでは、値引き額の計算だけでなく、店員が操作する画面やプリンターとの連携も開発対象になりました。
開発を担当したInsight Edgeのメンバーは店舗研修に参加し、品出しや発注を体験。忙しい売場でスマートフォンを操作する難しさを知り、従業員の意見を取り入れて画面を改善しました。[5]
利益改善額の詳細は公表されていません。開発元によると、2022年から約1年8か月の実証を経て全店展開したと説明しています。[5]
イオンリテール|導入対象を広げても、残数入力は人が担当
イオンリテールの「AIカカク」では、店員が商品のバーコードを読み取り、売場に並ぶ個数を入力します。AIが示した値引き率を確認し、持ち運べるプリンターでシールを発行する仕組みです。[6]
2024年5月、イオンリテールは「AIカカク」を畜産・水産部門にも広げ、対象を約380店舗、約1,200品目(従来の約1.5倍)とする計画を発表しました。ロス率は導入前より1割以上低下したとしています。比較期間や計算条件は公表されておらず、現在の導入規模も確認できていません。[6]
当時の仕組みでは、AIが値引き率を提案する前に、店員が売場の残り個数を入力する作業がありました。値引きの判断と残数確認は別の作業であり、どちらを省力化したいかによって選ぶ仕組みが変わります。
3社で違った、導入のポイント
| 企業 | 現場で見えた課題 | 自社で確認すること |
|---|---|---|
| 藤三 | 値引き判断が経験者に集中 | 店長以外にも担当を広げられるか |
| サミット | 忙しい売場での画面操作 | 夕方のピークでも使いやすいか |
| イオンリテール | 売場の残数入力が残る | 残数確認も省力化したいか |
AI値引きの効果|食品ロス削減と利益改善を検証
「12.6%減」と「1.3ポイント改善」は同じ意味ではない
「廃棄量が12.6%減った」と「値引きロス率が1.3ポイント下がった」は、測っているものが違います。改善率だけを並べても、どちらの施策が優れているかは判断できません。
| 公表された取り組み | 結果 | 読むときのポイント |
|---|---|---|
| 2023年のスーパー実店舗研究 | 値引きロス率が18.7%→17.4%(1.3ポイント低下) | 廃棄した商品の量が1.3%減ったという意味ではない |
| 2026年のバロー実証 | 食品廃棄量が12.6%減 | 自動発注など、値引き以外の施策も合わせて実施した結果 |
表2:測定した指標と施策の違いを比較しています。[7][8]
2023年の学会発表では、実店舗で約2週間の試験を行い、導入前の直近3か月と比べて値引きロス率が改善しました。ただ、5つの商品カテゴリのうち2つでは悪化しています。店員の作業費用は計算に含まれず、同じ時期の対照店舗を使った比較でもありません。[8]
一方、2026年のバローの実証では、食品廃棄量12.6%減のほか、売上総利益4.1%増、欠品回数3.2%減、発注・計画作業時間36.5%減が報告されています。こちらは発注、値引き、店舗運営を支援する複数のAIを組み合わせた成果です。[7]
売れ残りだけでなく「お店に利益が残ったか」を見る
早い時間から半額にすれば、廃棄する商品は減るかもしれません。しかし、定価で売れたはずの商品まで安くしてしまえば、その分利益が減ります。値引きを遅らせすぎた場合には、商品が売れ残ります。
そこで試験では、①粗利(売上から原価を引いた利益)②廃棄量③品切れの回数④値引き作業の時間を一緒に記録します。商品部は弁当と寿司の違いを、店長はシール貼りの作業量を、財務担当は機器や運用の費用を確認します。
廃棄だけでは決めない。4つの確認ポイント
値引き後も利益が残ったか
捨てる商品は減ったか
欠品は増えていないか
値引き作業は短くなったか
廃棄を減らしながら利益を確保できたか。試験前に合格ラインを決め、4つの数字で判断すると、全店展開の可否を話し合いやすくなります。
AI値引きの導入手順|試験から全店展開まで
全店へ広げるかどうかは、一部店舗で試してから判断します。具体的には、次の3段階です。
図解:まず小さく試す3段階
- 1対象商品と責任者を決める
- 2似た店舗と比べて試す
- 3広げる・直す・見送るを判断
準備や結果が不十分なら、前の段階へ戻して見直します。
① 何を値引きするか、誰が決めるか
商品部と店舗運営の担当者が、弁当や寿司など試す商品を絞ります。現在の値引き時刻と割引率を記録し、値引きを最後に決めるのが本部か店長かも整理します。FC加盟店が含まれるなら、契約上の権限も確認します。
② 似た店舗と比べて、本当に得か試す
規模や商品構成が近い店舗を比較相手に選びます。AIを導入した店と導入していない店で、同じ期間の粗利・廃棄・品切れ・作業時間を測ります。天候や特売、製造数を変えた場合も記録します。
試験前には、売上データが正しく届くか、発行した値引きシールをレジで読み取れるかまで確かめます。
③ 効果があった店から広げる
結果は全店平均だけでなく、商品別・店舗別にも確認します。廃棄が減っていても、利益が下がったり作業時間が増えたりした店舗は、値引き方法や作業の流れを見直して再試験します。
機器や運用の費用を含めて合格条件を満たした店舗から、導入範囲を広げます。
AI値引きシステムの導入費用とFC加盟店の注意点
AI値引きシステムの初期費用・運用費用
AIの利用料に加え、レジとの接続、商品を読み取る端末、プリンター、値引きシール、初期設定、従業員への説明、保守などにも費用がかかる場合があります。必要な機器や作業は導入方式によって異なります。
公開情報だけでは製品間の総費用を同じ条件で比較できません。見積もりを取るときは店舗数・対象商品・必要な機器の数をそろえ、店を増やした場合の料金と追加作業まで確認します。
FC加盟店の値引き価格は誰が決める?本部が注意すべき点
フランチャイズ加盟店があるスーパーでは、値引きを決める権限も確認する必要があります。本部が希望価格を伝えることと、加盟店の販売価格を一方的に拘束することは別です。
公正取引委員会のガイドラインでは、販売価格の拘束に加え、正当な理由なく見切り販売を制限する行為も問題になり得ると説明しています。[9]
値段を最後に決める人、加盟店データを利用できる範囲、導入費を負担する人。 FC担当と法務担当が契約内容を確かめたうえで、仕組みを選びます。
導入前のチェックリスト|確認したい4つの項目
社内で最初に集めたい情報は4つです。商品部、店舗運営、情報システム、財務の担当者がそれぞれ分かる範囲を持ち寄れば、次に調べることが明確になります。
| まず確認すること | 聞く相手の目安 |
|---|---|
| 何の商品を、今はいつ・何割引きしている? | 商品部・店舗運営 |
| 売上や在庫の数字は取れる? シールは発行できる? | 情報システム・店長 |
| 利益・廃棄・品切れ・作業時間は今どのくらい? | DX担当・財務 |
| 誰が値段を決め、導入費を負担する? | 営業本部・FC担当・法務 |
表3:社内の初回打ち合わせに使える確認メモ(編集部作成)。そのままコピーして利用できます。
AI値引きの検討では、値引き額の計算に加えて、売場での作業がどう変わり、利益がどう動くかを確かめることが大切です。データの準備や試験店舗の選び方を含めて相談したい場合は、AI Front Trendのお問い合わせ窓口をご利用ください。
出典・参照資料
- 株式会社サトー「AI値引きソリューション」(製品仕様、閲覧日:2026年10月26日) 原典を見る
- 株式会社シノプス「sinops-CLOUD AI値引」(製品仕様・FAQ、閲覧日:2026年10月26日) 原典を見る
- MiseMise「MiseMise AI値引き」(製品仕様・FAQ、閲覧日:2026年10月26日) 原典を見る
- 株式会社サトー・株式会社シノプス「惣菜の値引き判断にAIを活用、シール発行まで業務を標準化」(2026年3月13日、共同発表) 原典を見る
- Insight Edge「サミット:AI値引きシステム」(2026年3月4日、開発元の事例) 原典を見る
- イオンリテール・日本IBM「AIカカク/AIオーダー適用拡大」(2024年5月7日、日本IBM掲載) 原典を見る
- 日本気象協会・ソフトバンク「需要予測と商品値引きの最適化に関する実証」(2026年8月19日、共同発表) 原典を見る
- 中村暢佑ほか「スーパーマーケットにおける店舗の利益最大化のための値引き最適化アルゴリズムの開発」人工知能学会全国大会論文集(2023年、学会大会発表) 原典を見る
- 公正取引委員会「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」 原典を見る
- 株式会社サトー「AI値引きソリューション導入事例:株式会社藤三」(資料内容基準日2025年11月、提供元公表資料・AI Front Trendの独自取材ではない) 原典を見る


