ChatGPT情報漏洩を防ぐ4つの対策|Enterpriseと無料版で異なるセキュリティの実態

ChatGPT情報漏洩を防ぐ4つの対策|Enterpriseと無料版で異なるセキュリティの実態

「ChatGPT Enterpriseなら情報漏洩は防げる?」「無料版を業務で使うのは危険?」ChatGPTの業務活用を検討する企業にとって、セキュリティ対策は最大の関心事です。

実際に2023年には、サムスン電子でソースコードが流出する重大インシデントが発生し、日本からも661件のアカウント情報がダークウェブで販売される事態となりました。一方で、楽天グループやNECなど大手企業はChatGPT Enterpriseを全社導入し、大きな成果を上げています。

本記事では、ChatGPTにおける情報漏洩リスクの仕組みから、実際に起きた事例、無料プラン・Businessプラン・Enterpriseプランのセキュリティ比較、そして今すぐできる基本的な対策まで、企業のAI活用担当者が知るべき情報を解説します。

この記事でわかること
  • ChatGPT Enterpriseと無料版・Businessプランのセキュリティ機能の違い
  • サムスン電子のソースコード流出など実際に起きた情報漏洩事例
  • 「モデルの改善」設定オフ、入力禁止ルール、アカウント管理などの情報漏洩対策
  • 機密情報を誤って入力してしまった場合の初動対応5ステップ
  • 楽天グループやNECなど大手企業の導入事例から学ぶ実践的アプローチ
目次

ChatGPTの情報漏洩リスクとは

ChatGPTの利用には、企業が認識すべき複数のセキュリティリスクが存在します。最も深刻なのは、入力したデータが意図せず外部に流出したり、AIの学習データとして利用される可能性です。

OpenAIのサーバー上でデータが処理・保存される仕組み上、機密情報や個人情報を入力すると、情報漏洩のリスクが高まります。導入前にこれらのリスクを正確に理解し、適切な対策を講じることが企業には求められています。

入力データが学習に使われる仕組み

ChatGPTの無料プランやPlusプランでは、ユーザーが入力した会話データがAIモデルの改善のために利用される場合があります。OpenAIは、ユーザーとの対話を通じてモデルの精度を向上させるため、デフォルト設定では入力データを学習に活用する仕組みを採用しています。

この仕組みにより、ある企業が入力した機密情報が、将来的に他のユーザーへの回答に反映される可能性も否定できません。ただし、設定で「モデルの改善」をオフにすれば、この学習利用を停止できます。企業は必ずこの設定を確認し、機密情報の漏洩リスクを低減する必要があるでしょう。

企業が直面する7つのセキュリティリスク

企業がChatGPTを利用する際、以下の7つの主要なセキュリティリスクに直面します。

これらは単独で発生することもあれば、複合的に企業の信頼性や事業継続性を脅かすこともあり、各リスクへの理解と組織全体での対策が欠かせません。

機密情報の意図しない流出

従業員が社内プロジェクトの設計仕様、ソースコード、顧客情報などを誤ってChatGPTに入力すると、それらが外部に漏洩するリスクがあります。2023年には韓国の大手電子製品メーカーであるサムスン電子で、エンジニアがプログラムのエラー解消のためにソースコードを入力し、機密情報が流出する事件が発生しました。

さらに別のケースでは、社内会議の録音内容をテキスト化してChatGPTに入力し、議事録作成の効率化を図ろうとしたことも判明しています。このような事例から、企業は入力禁止情報のガイドラインを明確にする必要があるでしょう。

アカウント情報の漏洩

ChatGPTのアカウント情報(メールアドレス、パスワード、決済情報など)が不正アクセスや脆弱性により流出するリスクも存在します。2023年には、ChatGPT Plusユーザーの個人情報がシステムバグにより一部漏洩する事件が発生しました。

共有アカウントの使用や弱いパスワードの設定は、このリスクをさらに高める要因となるため、企業は多要素認証の導入とパスワード管理の徹底により、アカウント乗っ取りのリスクを低減できます。

チャット履歴の第三者閲覧

ChatGPTのチャット履歴には業務上の機密情報や個人情報が含まれる可能性があり、第三者に閲覧されると重大な情報漏洩につながります。

2023年3月には、システム障害によりChatGPT Plusユーザーの約1.2%のチャット履歴や決済情報が他のユーザーに表示される事態が発生しました。企業では、履歴の定期削除や一時チャット機能の活用が推奨されます。

この事例は「完全に安全なシステムは存在しない」ことを示しており、技術的対策と運用上の対策を組み合わせた多層防御が求められています。

プロンプトインジェクション攻撃

プロンプトインジェクションとは、悪意のある入力によってChatGPTの動作を意図しない方向に操作する攻撃手法です。攻撃者が巧妙に設計したプロンプトを入力することで、ChatGPTから本来アクセスできない情報を引き出したり、不適切な出力を生成させることが可能になります。

企業がChatGPTをカスタマーサポートなどに活用する場合、この攻撃により顧客情報が漏洩する恐れがあるため、入力内容の検証、出力のフィルタリング、そして権限の最小化が重要です。

著作権・商標権侵害のリスク

ChatGPTが生成する文章やコードには、既存の著作物や商標と類似する内容が含まれる可能性があります。企業がAI生成コンテンツを無検証で商用利用すると、知的財産権の侵害で訴訟リスクに直面する恐れがあります。実際、OpenAI自体も著作権侵害で複数の訴訟を抱えており、企業はAI生成物の利用に慎重な姿勢が求められます。

実務においては、AI生成コンテンツに対する人間のレビュープロセスを必ず組み込み、法務部門との連携を強化することが推奨されます。

ハルシネーションによる誤情報拡散

ChatGPTは時に事実と異なる情報や存在しないデータを生成する「ハルシネーション(幻覚)」現象を起こします。企業がこの誤情報を検証せずに顧客に提供したり、重要な意思決定に利用すると、信頼性の損失や経営判断のミスにつながる恐れがあります。

生成AIの信憑性リスクを認識し、セキュリティや法務の専門家を含めたチーム体制で対策を講じています。

過信による業務判断ミス

ChatGPTの回答を過度に信頼し、検証せずに業務で利用すると、重大なミスや損失を招く可能性があります。AIはあくまで確率的な予測に基づく出力を生成するため、専門的な判断や最終的な意思決定は人間が行うべきでしょう。

企業は従業員に対し、ChatGPTを「補助ツール」として位置づけ、批判的思考を持って活用するよう教育する必要があります。NECも約8万人のグローバル社員への展開時に利用ルールを規定し、安全な活用環境を整備しました。

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ChatGPTを業務利用する際の主要なリスクが体系的に整理されており、特に入力データが学習に使われうる点や履歴表示の不具合など、実際のインシデントに基づく説明は説得力があります。プロンプトインジェクションや著作権問題など、AI固有の課題にも触れられており、技術・法務の両面で注意が必要な点が明確です。

実際に起きた情報漏洩事例

ChatGPTによる情報漏洩は理論上のリスクではなく、実際に複数の企業で発生しています。これらの事例を分析することで、企業がどのような状況でセキュリティインシデントに直面するのか、そして何を学ぶべきかが明確になります。

以下では、特に影響が大きかった3つの事例を取り上げ、それぞれの背景、発生メカニズム、そして得られる教訓を解説します。

サムスン電子のソースコード流出事例

2023年3月、韓国の大手電子製品メーカーであるサムスン電子で、ChatGPTを通じた重大な情報漏洩インシデントが発生しました。具体的には、半導体部門のエンジニアが、プログラムのエラーを解消する目的で社内の機密ソースコードをChatGPTに入力したことが発端です。

さらに別のケースでは、社内会議の録音内容をテキスト化してChatGPTに入力し、議事録作成の効率化を図ろうとしたことも判明しました。この事件を受けてサムスンは、社内ネットワークでのChatGPTおよび類似のAIツールの使用を全面的に禁止する措置を取りました。

この事例の最大の教訓は「個人の生産性向上の意図が、企業全体のセキュリティリスクにつながる」という点です。企業は利便性とセキュリティのバランスを取るため、明確な利用ガイドラインと安全な代替手段(EnterpriseプランやオンプレミスAI)の提供が欠かせません。

日本から661件のアカウント情報が闇市場へ

2023年には、日本国内のChatGPTユーザー661件のアカウント情報(メールアドレスとパスワード)がダークウェブの闇市場で販売されていることが判明しました。これは「インフォスティーラー」と呼ばれる情報窃取マルウェアによってユーザーの認証情報が盗まれ、不正に取引された事例です。

流出した情報には、ChatGPT Plusの有料ユーザーも含まれており、企業アカウントが含まれていた可能性も指摘されています。この事例から、企業は個人アカウントでの業務利用を禁止し、組織として管理されたアカウントのみを使用すべきだと言えます。

また、多要素認証(MFA)の必須化とパスワード管理ツールの導入により、アカウント乗っ取りのリスクを大幅に低減できるでしょう。アカウント管理の一元化とセキュリティポリシーの徹底が、このようなリスクを防ぐ有効な対策となります。

ChatGPT Plusユーザーの個人情報バグ

2023年3月20日、ChatGPT Plusの有料ユーザーの一部で、他のユーザーのチャット履歴のタイトルや決済情報(下4桁のクレジットカード番号、メールアドレス、請求先住所など)が表示される重大なバグが発生しました。

OpenAIの公式発表によると、影響を受けたのはアクティブユーザーの約1.2%で、Redisクライアントライブラリ「redis-py」のバグが原因とされています。この事件は、システム側の不具合でも情報漏洩が発生しうることを示しており、企業は「完全に安全なシステムは存在しない」前提でリスク管理を行う必要があるでしょう。

具体的には、機密度の高い情報はそもそもChatGPTに入力しない運用ルールの徹底、定期的なチャット履歴の削除、そしてインシデント発生時の迅速な対応体制の整備が重要です。技術的対策だけでなく、最悪の事態を想定した事業継続計画(BCP)の策定が求められます。

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ChatGPT利用が抱えるリスクが具体的に示されており、入力管理の甘さ・アカウント防御の不備・システム不具合という三つの視点が的確に整理されています。特にサムスン事例のように個人の利便性追求が組織全体の脅威につながる点は、多くの企業が見落としがちなポイントです。

今すぐできる基本的な情報漏洩対策

ChatGPT Enterpriseの導入を検討する前に、企業は現時点で実施できる基本的なセキュリティ対策を講じるべきです。

これらの対策は、コストをかけずに即座に実行でき、情報漏洩リスクを大幅に低減できます。以下では、実践的で効果の高い4つの基本対策を詳しく解説します。

「モデルの改善」設定をオフにする手順

ChatGPTの設定で「モデルの改善」をオフにすることで、入力データがAIの学習に利用されなくなります。具体的な手順は、ChatGPTにログイン後、右上のプロフィールアイコンから「Settings(設定)」→「Data Controls(データ管理)」を選択し、「Improve the model for everyone(モデルの改善)」をオフにします。

この設定変更により、会話履歴はOpenAIのサーバーに30日間保存された後、自動的に削除されます。ただし、この対策だけでは情報漏洩リスクを完全には防げないため、他の対策と組み合わせることが重要でしょう。この設定を企業の全従業員に対して必須化し、定期的に設定状況を確認する仕組みを導入することが推奨されます。

機密情報の入力禁止ルールを社内で徹底

企業は、ChatGPTに入力してはいけない情報を明確に定義し、全従業員に周知徹底する必要があります。サムスン電子の事例のように、個人の生産性向上の意図が企業全体のリスクにつながるケースを防ぐため、具体的な違反事例とその影響を含めた教育資料を作成し、定期的に研修を実施することが効果的です。

また、情報を「入力禁止」「要注意(マスキング必須)」「入力可」の3段階に分類することで、従業員が迷わず判断できるようになります。

入力禁止情報の例
  • 個人情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレス)
  • 顧客情報・取引先情報
  • 財務データ・未公開の業績情報
  • ソースコード・技術仕様書
  • 契約書の内容・NDA(秘密保持契約)で保護された情報

アカウント管理とアクセス制御の強化

個人アカウントでの業務利用を禁止し、企業が管理する公式アカウントのみを使用するルールを確立すべきです。共有アカウントの使用は追跡が困難になるため避け、ユーザーごとに個別のアカウントを発行しましょう。また、多要素認証(MFA)を必須化することで、アカウント乗っ取りのリスクを大幅に低減できます(日本から661件のアカウント情報が流出した事例を参照)。

パスワードは、最低12文字以上で大文字・小文字・数字・記号を組み合わせた複雑なものを使用し、パスワード管理ツール(1Password、Bitwardenなど)での管理を推奨します。アカウント管理の一元化と定期的なアクセス権限のレビューが、セキュリティ強化の基盤となります。

従業員向けセキュリティ研修の実施

技術的な対策だけでなく、従業員のセキュリティリテラシー向上が情報漏洩防止の鍵となります。研修では、実際の情報漏洩事例(サムスン電子、ChatGPT Plusのバグなど)を共有し、リスクを具体的にイメージさせることが効果的です。

また、ChatGPTの仕組み(データの処理・保存方法、学習への利用)を平易に説明し、なぜ機密情報を入力してはいけないのかを理解させます。NECは、ChatGPT Enterpriseを活用し、経験の浅い人材でも高精度な分析が可能になるなど、人材育成面でも成果を上げています。

研修は年1回ではなく、四半期ごとや新入社員入社時など、定期的に実施することが重要です。さらに、研修後の理解度テストや実践的なケーススタディを取り入れることで、知識の定着を図るべきでしょう。

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即時に実施できる基本対策として、設定変更・入力規制・アカウント管理・教育という四つの軸が整理されており、企業がまず着手すべきポイントを網羅的に押さえています。特に「モデルの改善」をオフにする手順や入力禁止情報の具体例など、運用に直結する内容が明確で実務性が高い構成です。

企業が策定すべき利用ガイドライン

ChatGPTを組織的に安全に活用するには、技術的な対策に加えて、明確な利用ガイドラインの策定が欠かせません。

ガイドラインは、従業員が日々の業務でChatGPTを使う際の判断基準となり、組織全体のセキュリティレベルを底上げします。以下では、実効性の高いガイドライン策定のポイントを解説します。

利用目的と承認フローの明確化

ChatGPTの利用を許可する業務範囲を明確に定義し、それ以外の利用は原則禁止とします。例えば、「文書の要約、アイデア出し、プログラミングの学習支援は許可、顧客対応や契約書作成は禁止」といった具体的な基準を設けましょう。また、新たな用途でChatGPTを使用する場合は、情報システム部門やセキュリティ担当者の事前承認を必須とするフローを確立します。

NECでは、ChatGPT Enterpriseをサイバーセキュリティ業務に活用する際、明確な利用目的と承認プロセスを設定し、検知ルール実装処理の作業工数を約80%削減しています。利用目的の明確化により、従業員が自己判断で不適切な使い方をするリスクを大幅に低減できるのです。

入力禁止情報の具体的な分類基準

従業員が迷わず判断できるよう、入力してよい情報と禁止される情報を3段階に分類することが効果的です。この分類基準を社内イントラネットや研修資料で常時参照できるようにしましょう。

さらに、具体的な入力例と禁止例を示すことで、従業員の理解を深めることができます。

レベル
入力禁止

個人情報、機密情報、未公開情報、顧客データ、ソースコードなど、絶対に入力してはいけない情報

レベル
要注意(マスキング必須)

社内限定情報、プロジェクト名、具体的な数値など。固有名詞や数値を一般化・匿名化してから入力することを条件とする

レベル
入力可

公開情報、一般的な知識、個人の学習目的の内容など、機密性のない情報

利用ログの記録と定期監査の仕組み

誰がいつどのような目的でChatGPTを使用したかを記録し、定期的に監査する仕組みが必要です。ChatGPT Enterpriseでは監査ログ機能が標準搭載されていますが、Businessプランや無料プランを使用している場合は、従業員に利用報告書の提出を義務づけるなどの代替手段を検討します。

監査では、利用頻度、入力内容の適切性、ガイドライン遵守状況を確認し、違反が発見された場合は速やかに是正措置を講じます。ChatGPT Enterpriseでは監査ログ機能により、管理者が全社員の利用状況を可視化し、セキュアな活用基盤を整備できます。監査ログを単なる記録ではなく、リスク予測と改善のためのデータとして活用することが推奨されます。

違反時の対応手順と再発防止策

ガイドライン違反が発覚した際の対応手順を事前に明確化しておくことが重要です。発見者は直ちに上司または情報セキュリティ担当者(CISO、情報システム部門など)に報告し、影響範囲の特定、関係者への通知、履歴の削除、設定の見直しを迅速に実行します。

違反者には、故意か過失かを問わず、再発防止のための個別研修を実施し、重大な違反の場合は懲戒処分も検討しましょう。また、違反事例を(個人情報を伏せた形で)全社に共有し、同様のミスを防ぐための教訓とします。

サムスン電子の事例後、同社は全社的にChatGPT使用を禁止しましたが、より建設的なアプローチは、違反の根本原因を分析し、ガイドラインやツールの改善につなげることです。従業員が「効率化したい」というニーズを持っていた場合、セキュアな代替手段を提供することで、シャドーAIのリスクを低減できます。

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利用ガイドラインの策定ポイントが、目的設定・入力基準・監査体制・違反対応と段階的に整理されており、組織的な統制をどう確立するかが具体的に示されています。特に、利用範囲を明確にすることで従業員の判断ブレを抑え、禁止情報の三段階分類により実務で迷わない仕組みを作る点は実効性があります。

ChatGPT Enterpriseを選ぶべき企業の条件

すべての企業にChatGPT Enterpriseが必要なわけではありません。

企業の規模、業種、セキュリティ要件、予算などに応じて、適切なプランは異なります。以下では、Enterpriseプランの導入を真剣に検討すべき企業の条件を具体的に解説します。

なお、ChatGPT Businessプランは、2025年8月29日まで「ChatGPT Team」という名称でしたが、機能や料金に変更はありません。

大規模展開を検討している組織

従業員数が数百人以上で、ChatGPTを全社的に展開する計画がある企業には、Enterpriseプランが適しています。楽天グループは、全社員がセキュアな環境でAIを活用できるよう、ChatGPT Enterpriseを導入しました。Enterpriseプランでは、無制限のGPT-4アクセス、高速処理、専用サポートが提供されるため、大規模利用時のパフォーマンス低下やサポート不足のリスクを回避できます。

また、SCIM連携により数千人規模のユーザーアカウントを自動プロビジョニングでき、IT管理者の負担を大幅に軽減します。大規模展開では個別のアカウント管理が困難になるため、一元管理機能を持つEnterpriseプランは投資対効果が高いと言えるでしょう。

法規制の厳しい業界での導入

金融、医療、法務、政府機関など、個人情報保護法、GDPR、HIPAA、金融商品取引法などの厳格な規制に従う必要がある業界では、Enterpriseプランのセキュリティ機能が欠かせません。ChatGPT Enterpriseは、SOC 2準拠の暗号化、GDPR・CCPA対応、地域別データ保管オプション、詳細な監査ログなど、コンプライアンス要件を満たす機能を備えています。

NECは、サイバーセキュリティ業務という機密性の高い分野でChatGPT Enterpriseを活用し、「自社でLLMを導入したことでセキュリティが脆弱になるどころかむしろ強化されている」と評価しています。規制業界では、監査対応や法的リスクの低減が事業継続の鍵となるため、Enterpriseプランへの投資は必須と考えるべきでしょう。

高度なアクセス統制が必要なケース

部署や役職によって異なるアクセス権限を設定したい企業、または特定の機密プロジェクトでChatGPTを使用する企業には、ロールベースアクセス制御(RBAC)が重要です。Enterpriseプランでは、管理者が細かい権限設定を行い、誰がどのデータにアクセスできるかを厳密に管理できます。

また、監査ログにより、すべてのアクセス履歴を追跡でき、内部不正や情報漏洩の早期発見が可能になります。M&Aや新製品開発など、機密性が極めて高いプロジェクトを扱う企業では、RBACと監査ログが情報漏洩防止の最後の砦になると言えます。

他の法人向けAIサービスとの比較ポイント

ChatGPT Enterprise以外にも、Google Gemini Enterprise、Microsoft Copilot for Microsoft 365、AWS Bedrock、Anthropic Claude for Workなど、複数の法人向けAIサービスが存在します。

ChatGPT Enterpriseの強みは、最先端のGPT-4モデルへの無制限アクセス、高速処理、カスタムGPTs(社内専用のカスタムAI)の作成、OpenAIの継続的なモデル改善です。一方、Microsoft 365との統合を重視する企業にはCopilotが、AWSインフラとの連携を求める企業にはBedrockが適している場合もあります。

重要なのは、自社の既存システム、セキュリティ要件、予算、利用目的を総合的に評価し、適切なソリューションを選択することです。各サービスの試験導入を行い、実際の業務での使い勝手とセキュリティレベルを比較検証することが推奨されます。

日本企業の導入実績

  • 楽天グループ:30,000名以上の社員、8,000名の日次アクティブユーザー
  • NEC:80,000名のグローバル社員、文書作成時間50%削減、議事録作成83%削減
  • 株式会社MIXI:全社員、月間17,600時間削減、99%の社員が生産性向上を報告
  • Zenken株式会社:全社員466名、月間12,500時間削減、年間約5,000万円のコスト削減
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Enterpriseを選ぶべき条件が、組織規模・規制要件・アクセス統制・他サービス比較という複数の観点から整理されており、判断軸がわかりやすく提示されています。

情報を入力してしまった場合の対応

万が一、機密情報をChatGPTに入力してしまった場合、迅速かつ適切な初動対応が被害の拡大を防ぎます。

パニックにならず、以下の手順に従って組織的に対処することが重要です。

初動対応の5つのステップ

情報漏洩インシデント発生時の初動対応は、以下の5ステップで進めます。これらの対応を迅速に行うことで、情報が学習データに組み込まれるリスクや、第三者に閲覧されるリスクを最小化できるでしょう。

STEP
入力を直ちに停止

該当するチャットセッションを終了します

STEP
即座に報告

上司および情報セキュリティ担当者(CISO、情報システム部門など)に即座に報告しましょう

STEP
詳細を記録

入力した情報の内容、機密度、入力日時、使用したアカウントを記録します

STEP
設定を確認

ChatGPTの「モデルの改善」設定を確認し、オンの場合は即座にオフにします

STEP
履歴削除とアカウント停止

該当する会話履歴を削除し、可能であればアカウントを一時停止します

影響範囲の特定と社内報告

初動対応後、入力した情報の影響範囲を詳細に特定します。具体的には、漏洩した情報の種類(個人情報、顧客データ、財務情報、技術情報など)、影響を受ける可能性のある関係者(顧客、取引先、従業員など)、法的・契約的な義務(個人情報保護法、GDPR、NDAなど)、ビジネスへの影響(評判損失、競争優位性の喪失など)を評価します。

この評価結果を経営層、法務部門、広報部門に報告し、必要に応じて外部への通知や公表を検討します。サムスン電子の事例では、ソースコードの流出が報道され、企業の評判に影響を与えました。透明性のある対応が、長期的な信頼回復につながります。影響範囲の特定に外部の専門家(法律事務所、セキュリティコンサルタント)を活用することも推奨されます。

履歴削除とアカウント設定の見直し

該当する会話履歴をChatGPTから完全に削除します。ChatGPTの画面左側のサイドバーから該当する会話を選択し、ゴミ箱アイコンをクリックして削除しましょう。ただし、削除した履歴はOpenAIのサーバー上で30日以内に完全削除される仕組みのため、即座には消去されません。

また、アカウント設定で「モデルの改善」がオフになっているか、多要素認証が有効になっているかを再確認します。企業アカウントの場合、パスワードを変更し、アクセスログを確認して不正アクセスの兆候がないかをチェックします。この段階で組織全体のセキュリティ設定を見直し、同様のインシデントを防ぐための予防措置を講じることが重要です。

再発防止に向けた運用ルール改定

インシデントの根本原因を分析し、同様の事故を防ぐための運用ルールを改定します。例えば、サムスン電子の事例では、エンジニアが「効率化のため」にソースコードを入力しており、安全な代替手段(社内のコードレビューツール、セキュアなAI環境)が提供されていれば防げた可能性があります。

企業は、従業員のニーズを理解し、セキュアかつ便利なツールを提供することで、シャドーIT(非公式なツール使用)のリスクを低減できます。また、インシデント事例を(匿名化して)社内で共有し、全従業員の意識向上につなげます。

ChatGPT Enterpriseを導入し、明確なガイドラインと適切な運用体制を整備することで、安全かつ効果的なAI活用が実現します。インシデントを「学びの機会」として捉え、組織のセキュリティ文化を継続的に改善することが最も重要なのです。

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段階的な導入、技術的防御、多重監視、そして運用面の柔軟性という四つの観点から、AI活用とセキュリティをどう両立させるかがバランスよく整理されています。特にシャドーAIへの対処を「禁止」だけに寄せず、公式ツールの提供や改善へつなげる視点は現場で有効です。DLPやAPI連携による制御強化も含め、実務で採用しやすい施策が具体的に示されています。

AI活用とセキュリティを両立させる方法

ChatGPTの導入は、業務効率化と生産性向上の大きな機会ですが、セキュリティリスクとのバランスが重要です。

以下では、AI活用とセキュリティを両立させるための実践的なアプローチを解説します。

段階的な導入アプローチの設計

いきなり全社展開するのではなく、パイロットプロジェクトから始めて段階的に拡大する方法が推奨されます。楽天グループは、パイロットプログラムから始めるボトムアップ型の段階的アプローチでChatGPT Enterpriseを導入し、安全かつ効果的な活用を実現しています。

各フェーズで得られた知見を次のフェーズに活かすPDCAサイクルを回すことが、成功の鍵です。

フェーズ
試験導入

情報システム部門など限定的な部署で試験導入し、セキュリティリスク、利用パターン、効果を評価します

フェーズ
部分展開

評価結果を基にガイドラインを策定し、複数の部署に展開しましょう

フェーズ
全社展開

全社展開を行い、継続的な監視と改善を実施します

DLPツールとAPI連携の活用

DLP(Data Loss Prevention:情報漏洩防止)ツールをChatGPTと連携させることで、機密情報の入力を自動的にブロックできます。

例えば、従業員がChatGPTにクレジットカード番号や個人情報を入力しようとした際、DLPツールがリアルタイムで検知し、送信を阻止する仕組みです。また、OpenAIのAPI経由でChatGPTを利用する場合、入力データの事前スクリーニング、出力内容のフィルタリング、ログ記録などのセキュリティ機能を独自に実装できます。

NECは、ChatGPT Enterpriseをサイバーセキュリティ業務に活用し、検知ルール実装処理の作業工数80%削減を実現しています。DLPとAPIの組み合わせにより、技術的な防御層を多重化することが強く推奨されます。

シャドーAI対策と継続的な監視体制

従業員が公式に承認されていないAIツールを無断で使用する「シャドーAI」は、企業の情報漏洩リスクを高めます。サムスン電子の事例も、個人判断でのChatGPT使用が原因でした。シャドーAI対策としては、企業公式のセキュアなAIツール(ChatGPT Enterpriseなど)を提供し、従業員のニーズを満たすことが最も効果的です。

また、ネットワークトラフィック監視ツールやクラウドアクセスセキュリティブローカー(CASB)を導入し、未承認のAIサービスへのアクセスを検知・ブロックします。

継続的な監視により、新たなリスクの早期発見と迅速な対応が可能になります。禁止するだけでなく、なぜ従業員がシャドーAIを使うのかを理解し、公式ツールの改善につなげることが重要でしょう。

セキュリティと業務効率化のバランス

過度に厳格なセキュリティポリシーは、従業員の生産性を阻害し、シャドーAIの使用を促進する可能性があります。重要なのは、リスクベースのアプローチを採用し、情報の機密度に応じた柔軟なセキュリティレベルを設定することです。

例えば、公開情報や低機密度の業務には無料プランやBusinessプランを許可し、機密情報を扱う部署にはEnterpriseプランを提供するといった使い分けが効果的でしょう。楽天グループは、全社員が安心してAIを活用できる環境を整備することで、セキュリティと生産性の両立を実現しています。

従業員のフィードバックを定期的に収集し、ポリシーとツールを継続的に改善することが、持続可能なAI活用の鍵です。セキュリティと効率化は対立するものではなく、適切なツールと運用により両立できるのです。

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インシデント発生時の初動手順から影響範囲の特定、設定見直し、再発防止まで一連の流れが整理されており、実務でそのまま参考にしやすい内容になっています。技術的対応だけでなく、報告・分析・運用改善といった組織的プロセスを含めている点は、AI利用における統制の観点として妥当です。特に、従業員ニーズと安全性の両立を図る姿勢を示している点は、シャドーAIの抑止にも有効です。

よくある質問|ChatGPT Enterpriseと情報漏洩対策

ChatGPT Enterpriseなら情報漏洩は完全に防げますか?

ChatGPT Enterpriseは高度なセキュリティ機能を備えていますが、情報漏洩リスクを完全にゼロにすることはできません。

2023年3月のChatGPT Plusのバグ事例が示すように、システム側の脆弱性やヒューマンエラーにより情報漏洩は発生しうるためです。Enterpriseプランは、データの非学習保証、SOC 2準拠の暗号化、監査ログなどにより、無料プランやBusinessプランと比較して大幅にリスクを低減します。

しかし、従業員教育、利用ガイドラインの徹底、DLPツールの併用など、技術的対策と組織的対策を組み合わせた多層防御が欠かせません。「完全なセキュリティ」は存在せず、継続的なリスク管理と改善が重要なのです。

無料版を業務で使うのは危険ですか?

無料版を業務で使用することは、重大なセキュリティリスクを伴うため推奨されません。

無料版では、入力データがAIの学習に利用される可能性があり、機密情報の保護が保証されていません。また、データ暗号化の強度、アクセス制御、監査機能などが企業レベルのセキュリティ要件を満たしていません。サムスン電子の事例では、個人判断での無料版使用が機密情報流出につながりました。

業務での使用には、最低でもBusinessプラン、可能であればEnterpriseプランの導入を検討すべきです。無料版の業務利用を全面禁止し、代わりにセキュアな法人向けプランを提供することが強く推奨されます。

ChatGPT Enterpriseの料金はどれくらいですか?

ChatGPT Enterpriseの料金は公開されておらず、企業ごとに見積もりが必要です。

料金は、ユーザー数、利用規模、カスタマイズ要件などに応じて変動します。参考として、ChatGPT Plusは月額20ドル、Businessプラン(2025年8月まで「Team」と呼称)は年契約で月額25ドル/ユーザー、月契約で月額30ドル/ユーザーからですが、Enterpriseはより高額と想定されます。導入を検討する企業は、OpenAIの営業チームに問い合わせ、具体的な見積もりと導入支援を受けることが推奨されます。

楽天グループやNECのような大手企業が導入している実績から、大規模展開や高度なセキュリティ要件を持つ企業には投資対効果が高いと考えられます。料金だけでなく、セキュリティリスクの低減や業務効率化による総合的なROIを評価すべきでしょう。

既に機密情報を入力してしまった場合はどうすればよいですか?

直ちに上司および情報セキュリティ担当者に報告し、初動対応の5ステップ(入力停止、報告、記録、設定確認、履歴削除)を実行してください。

影響範囲を特定し、必要に応じて関係者への通知や法的対応を検討します。履歴削除後、データは最大30日以内にOpenAIのサーバーから完全に消去されます。それまでの期間を考慮し、最悪の事態を想定した対策(パスワード変更、アクセス権限の見直し、監視強化など)を講じましょう。

また、インシデントの根本原因を分析し、ガイドラインや研修内容を改善して再発を防ぎます。インシデントを隠蔽せず、組織として学ぶ姿勢を持つことが、長期的なセキュリティ強化につながるのです。

中小企業でもChatGPT Enterpriseを導入すべきですか?

中小企業にとって、ChatGPT Enterpriseが必ずしも必要とは限りません。

従業員数が数十人程度で、基本的なセキュリティ要件を満たせばよい場合は、Businessプラン(Team)で十分な場合が多いです。Businessプランでも、データの非学習保証、SSO、MFA、暗号化などの基本的なセキュリティ機能が提供されます。一方、金融・医療など規制の厳しい業界、または大規模展開を計画している中小企業には、Enterpriseプランの高度なセキュリティと統制機能が有益です。

重要なのは、自社のセキュリティ要件、予算、利用規模を総合的に評価し、適切なプランを選択することです。まずはBusinessプランで試験導入し、必要に応じてEnterpriseにアップグレードする段階的アプローチも効果的でしょう。企業規模ではなく、取り扱うデータの機密度と規制要件に基づいてプランを選択することが推奨されます。

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