AI×造船で業務効率化!活用事例や未来展望を詳しく解説

近年、日本の造船業界では人手不足や国際競争の激化、環境規制強化など多くの課題に直面しています。そんな中、注目を集めているのが「AI×造船」という新たな取り組みです。AIを活用することで設計の最適化や製造工程の自動化、燃料効率の向上など、様々な業務効率化が実現可能になっています。三菱重工業や今治造船、ジャパンマリンユナイテッドといった日本の主要造船会社も積極的にAI技術を導入し、スマートシップ開発や自動溶接システムなど革新的な取り組みを進めています。本記事では、造船業界におけるAI活用の現状や具体的な事例、メリット、そして将来展望について詳しく解説します。造船業界に関わる方はもちろん、製造業全般でのAI活用に興味がある方にも参考になる内容となっています。
- 日本の造船業界が直面する課題と、AIがそれらをどのように解決できるのか
- 三菱重工業、今治造船、ジャパンマリンユナイテッドなど日本の主要造船会社におけるAI活用の具体的事例
- AI導入による燃料効率向上や環境負荷低減など、造船業界におけるメリットと効果
- スマートシップや自律航行技術など、AI×造船がもたらす未来の可能性
- 造船業界だけでなく製造業全般でAIを導入する際のポイントと注意点
「AIで業務の自動化・効率化をしたい!だけど何から始めていいのかわからない・・・」という方はご気軽にご相談ください!
AI×造船業界の現状と課題
造船業界は長い歴史と伝統を持つ産業ですが、近年はさまざまな課題に直面しています。特に日本の造船業界は、韓国や中国などの新興国との競争激化や人手不足など、複数の課題を抱えています。こうした状況の中、AIの導入は業界の課題解決と競争力強化の鍵として注目されています。AIによる自動化や最適化が進むことで、生産性向上や品質向上、コスト削減などの効果が期待されています。
日本の造船業界が直面する課題
日本の造船業界は、かつては世界トップの地位を誇りましたが、現在は韓国や中国などの新興国に市場シェアを奪われつつあります。2023年時点で国内の鋼船造船所数は402社、FRP・木造船造船所は147社となっています。一方で、日本の造船業は世界シェアの約20%を維持し、環境技術や効率性で競争力を保っています。高齢化が進む日本社会において、造船業を含む産業全体で若手人材の確保が課題となっており、持続可能な産業発展のために人材育成が急務となっています。
人手不足と高齢化の影響
造船業界では熟練技術者の高齢化と若手人材の不足が深刻な問題となっています。特に溶接や塗装などの技術職では、2022年9月時点で約9,500名の生産人材が不足しています。造船業界の就業者数は2013年の約18.5万人から2022年には約15万人まで減少しており、技術の伝承が課題となっています。この状況を改善するため、川崎重工業と川崎汽船はAIを活用した機関プラント運転支援システムの共同開発を開始するなど、自動化技術の導入が進められています。
環境規制強化による対応負担
国際海事機関(IMO)による環境規制の強化は、造船業界に大きな変革を迫っています。2020年からの硫黄酸化物(SOx)規制、2023年からの省エネ性能規制(EEDI)など、次々と厳しい基準が導入されています。これらの規制に対応した船舶設計や環境技術の開発には、膨大なデータ分析と複雑な計算が必要です。AIを活用することで、環境性能と経済性を両立させた最適な船舶設計が可能になります。
世界的な競争激化とコスト削減の必要性
韓国や中国などの新興国との価格競争が激化する中、日本の造船業界はコスト削減と高付加価値化の両立を迫られています。労働コストの安い国々と単純な価格競争を行うのではなく、技術力や品質、環境性能などで差別化を図る必要があります。AIを活用した生産効率化や最適設計により、コスト競争力と技術的優位性を確保することが重要です。また、船舶の高度化・複雑化に伴い、設計・製造工程も複雑化しており、AIによる効率化が不可欠となっています。
AI技術が造船業界に期待される理由
造船業界においてAI技術が注目される最大の理由は、複雑な設計・製造工程の効率化と最適化が可能になるからです。船舶は数万点の部品から構成される複雑な製品であり、その設計から製造までのプロセスは膨大な時間と労力を要します。AIを活用することで、これらのプロセスを大幅に効率化し、人手不足や競争力強化などの課題解決につなげることができます。
自動化による生産性向上
AIを活用した自動化システムの導入により、造船所の生産性を大幅に向上させることが可能です。例えば、AI技術を活用した溶接ロボットは複雑な形状の部材でもリアルタイムでジョイントをスキャンして分析し、高品質な溶接を一貫して実現できます。大島造船所ではモバイル溶接ロボットの導入により生産性の向上と高品質な溶接を実現しています。また、AIを活用した材料ハンドリングの最適化や予測メンテナンスにより、遅延を最小限に抑え、ダウンタイムを削減するなど、造船プロセス全体の効率化が進められています。
安全性向上とリスク管理の強化
造船所は重量物の取り扱いや高所作業など、危険を伴う作業環境が多く存在します。AIを活用した安全管理システムにより、事故リスクの低減が期待されています。例えば、カメラやセンサーから得られるデータをAIが分析し、危険な状況を事前に検知して警告を発することができます。韓国の海運会社HMMでは、「Deep Eyes」というAI搭載ビデオ分析システムを導入し、火災、煙、作業員の危険状態などの異常を自動検知して警告を発する取り組みを進めています。このシステムはエンジンルームやデッキなど15か所に設置されたカメラで監視を行い、危険を即座に担当者に通知します。また、AI技術は危険区域での作業員の滞在時間監視や、フォークリフトと作業員の衝突防止など、造船所の安全性向上に幅広く貢献しています。
AI×造船の具体的な活用事例

造船業界では、設計から製造、運航、保守に至るまで、様々な工程でAIの活用が進んでいます。特に設計プロセスや製造工程では、AIによる自動化や最適化が大きな効果を上げています。ここでは、造船業界におけるAIの具体的な活用事例を紹介します。各工程でどのようにAIが活用され、どのような効果をもたらしているのかを見ていきましょう。
設計プロセスへのAI活用
船舶設計は非常に複雑なプロセスであり、流体力学、構造力学、機械工学など多岐にわたる専門知識が必要です。AIを活用することで、これらの複雑な計算や最適化を効率的に行うことができます。例えば、船体形状の最適化では、AIが数千もの設計パターンをシミュレーションし、最も効率的な形状を提案することができます。また、材料選定においても、AIが過去のデータや材料特性を分析し、最適な材料の組み合わせを提案することが可能です。
船体形状の最適化と自動設計
AIを活用した船体形状の最適化は、燃費性能や航行安定性の向上に大きく貢献しています。従来は設計者の経験と勘に頼る部分が大きかった船体設計ですが、AIによる流体解析と最適化アルゴリズムを組み合わせることで、科学的に最適な形状を導き出すことができるようになりました。三菱重工業の「MATES」は船舶3Dエンジニアリングシステムで、30年以上の歴史を持ち約30の造船所や設計事務所で活用されています。同社は高度なCFD解析と100年以上の歴史で蓄積された水槽試験データベースを活用して船体形状の最適化を行い、実際の運用プロファイルに基づいた設計を行うことで、様々な速度や喫水での柔軟な性能を実現しています。また、同社のMitsubishi Air Lubrication System(MALS)は船底の平らな部分に気泡カーペットを形成して粘性抵抗を低減し、クルーズ船で5%、モジュールキャリアで12%の性能向上を確認しています。
材料選定の効率化
船舶建造には様々な材料が使用されますが、AIを活用することで最適な材料選定が可能になります。AIは過去の設計データや材料特性、コスト、供給状況などを総合的に分析し、最適な材料の組み合わせを提案します。今治市が育成したAI人材による「パイプ部品AI予測システム」の導入により、造船部品の発注業務において過剰発注を解消し、わずか2つの部品だけで約1,000万円のコスト削減に成功しています。また、環境負荷の低い新素材の採用においても、産総研が開発した深層学習AIを用いた画像からアルミニウム合金の強度を予測する技術など、新たな技術開発が進んでいます。リサイクルアルミニウム合金は従来のソリューションと比較して15%高い強度を持ち、材料使用量を最大15%削減することが可能です。
製造工程におけるAIの役割
造船の製造工程では、溶接や切断、組立など多くの作業が行われますが、これらの工程にAIを導入することで生産性と品質の向上が実現しています。特に溶接工程では、AIを活用した自動溶接システムの導入が進んでいます。また、生産スケジュールの最適化や品質検査の自動化にもAIが活用されています。これにより、人手不足の解消や作業効率の向上、品質の安定化などの効果が得られています。
自動溶接技術と品質検査の自動化
AIを活用した自動溶接システムは、熟練技術者の技術を学習し、最適な溶接パラメータを自動的に設定することができます。ジャパンマリンユナイテッドでは、船体ブロック組立用溶接ロボットシステムを導入し、独自開発のCAMシステムで操作データを生成しています。このシステムはギャップ適応制御と曲線継手の溶接機能により、溶接品質と生産性の向上に貢献しています。また、同社は大阪府立大学と共同で、AIを活用した鋼板曲げ作業支援システムを開発し、熟練技能者の加熱データを学習させることで非熟練者でも熟練者並みの作業を可能にしています。溶接後の品質検査においても、AI画像認識技術の活用が進んでいます。三菱重工業では、横河電機と共同でロボットを活用した自動検査システムの開発プロジェクトを進め、爆発性雰囲気条件下でも安全に検査を実施できるシステムの実用化を目指しています。
生産スケジュールの最適化
造船所では多数の工程が並行して進行するため、生産スケジュールの最適化は非常に重要です。AIを活用したスケジューリングシステムでは、各工程の所要時間や資源の制約、優先順位などを考慮し、最も効率的な生産計画を立案します。今治造船では、DX推進室を新設し、社員業務の負荷低減及び効率化をテーマに会社としてDXを推進することで、人材不足の解消に努めています。また、今治市が育成したAI人材によって開発された「パイプ部品AI予測システム」では、これまで社員の勘と経験に頼っていた造船部品の発注業務をAIで予測し、過剰発注を解消することで、わずか2つの部品だけで約1,000万円のコスト削減効果を生み出しました。このようなAI活用は造船業界の生産効率を大幅に向上させる可能性があります。
運航・保守へのAI導入事例
船舶の運航や保守においても、AIの活用が進んでいます。燃料効率の最適化や故障予測、予防保全などにAIが活用されることで、運航コストの削減や安全性の向上が実現しています。特に近年は、IoTセンサーとAIを組み合わせた「スマートシップ」の開発が進んでおり、船舶の状態をリアルタイムで監視・分析し、最適な運航や保守を支援するシステムが実用化されています。
燃料効率最適化によるコスト削減
船舶の運航コストの中で最も大きな割合を占めるのが燃料費です。船種やサービス内容によっては、燃料費が運航コスト全体の50-60%に達することもあります。AIを活用した燃料効率最適化システムでは、気象・海象データや船舶の状態、貨物の積載状況などを総合的に分析し、最も燃料効率の良い航路や速度を提案します。日本郵船が開発した「SIMS」(Ship Information Management System)は、船舶の位置や船速、燃費などのデータを収集し、船陸間でリアルタイムに共有するシステムです。2008年から導入が始まり、約6年間でコンテナ船など50隻以上に搭載され、約10%の燃料費削減を達成し、数千億円規模の運航コスト削減効果をもたらしました。現在は約200隻に搭載され、エンジントラブルの早期発見や予防保全、安全運航を支援するアプリケーションも開発されています。
故障予測や予防保全システム
船舶の機器故障は、運航スケジュールの乱れや高額な修理費用を引き起こす可能性があります。AIを活用した故障予測システムでは、各種センサーから収集されるデータを分析し、機器の異常を早期に検知することができます。ジャパンマリンユナイテッドは「Sea-Navi®」を用いて船舶の航行データを収集し、実海域での性能向上に取り組んでいます。このシステムでは、船舶の状態をモニタリングし、計算処理やデータの可視化を行うことで、運航をサポートしています。AIとIoTを活用した予知保全技術では、エンジンの温度、振動、圧力などのデータをリアルタイムでモニタリングすることで、潜在的な故障箇所を特定し、迅速に対応できます。これにより、突発的な機械トラブルのリスクを最小限に抑え、運航の安定性が向上し、運航スケジュールがより正確に保たれるようになっています。
AI導入による造船業界へのメリット
造船業界へのAI導入は、様々な面でメリットをもたらしています。特に業務効率化とコスト削減、環境負荷低減などの面で大きな効果が見られます。ここでは、AI導入による具体的なメリットについて詳しく見ていきましょう。これらのメリットを理解することで、造船業界におけるAI活用の重要性がより明確になるでしょう。
業務効率化とコスト削減の実現
AI導入の最大のメリットは、業務効率化とそれに伴うコスト削減です。設計から製造、運航、保守に至るまで、あらゆる工程でAIによる効率化が可能です。例えば、設計工程では、AIによる最適化計算により設計時間を大幅に短縮できます。三菱重工業では、機械システムの知能化により最適運用を実現するデジタル・テクノロジーを集約したプラットフォームを開発し、自動化・自律化ソリューション「ΣSynX(シグマシンクス)」を提供しています。また、製造工程では、AIによるデータパターンの分析と予測に基づく意思決定サポートにより、生産プロセスの最適化と予測メンテナンスが実現し、生産性の向上とコスト削減につながっています。
労働力不足への対応策としてのAI活用
造船業界における深刻な人手不足と高齢化問題に対して、AIによる自動化は有効な解決策となっています。特に溶接や塗装などの技能職では、AIを活用したロボットの導入が進んでいます。今治造船では、「AI機能による溶接ロボット4台連携システム」や「大型立体曲がりブロック用自動溶接ロボット6台連携システム」の開発に取り組んでいます。このシステムでは、3D設計情報を基に複数台で連携して作業手順や配分を判断しながら自動溶接を行い、溶接の生産性及び生産量の向上を目指しています。また、熟練技術者の技術を継承する取り組みも進んでいます。三菱重工業では、「技能塾」を開設し、1~2人の受講者に対して熟練技能者がマンツーマンで指導する体制を整えています。さらに、熟練の技をビデオで撮影し、本人の解説をつけた独自の伝承ツールも作成されています。
材料費・人件費削減の具体例
AIを活用した最適設計や材料選定により、材料費の削減が可能になります。ジャパンマリンユナイテッドでは、船級規則で要求される構造設計作業を自動化した構造強度評価システムを開発し、最適化技術を駆使して船級規則の要求を満たしながら「丈夫で壊れにくく、かつ極力軽く」する船舶設計を実現しています。また、同社は大阪府立大学と共同でAI線状加熱方案による板曲げ作業支援・自動化システムの研究も進めています。人件費についても、AIによる自動化や効率化により削減が可能です。三菱重工業の長崎造船所では、基幹システムのデータウェアハウスにマイクロソフトと富士通の技術を採用し、現場の従業員自身が必要なデータを抽出・加工・分析できるようにすることで、迅速な意思決定や業務効率の向上を実現しています。さらに、台湾国際造船のようにロボットによる先進的建造プロセスを構築する取り組みも進んでおり、生産効率向上と品質改善によるコスト削減が期待されています。
環境負荷低減への貢献
環境規制が強化される中、AIは船舶の環境性能向上に大きく貢献しています。AIを活用した最適設計により、燃費性能の向上や排出ガスの削減が可能になります。また、運航時においても、AIによる最適航路の選定や機関の制御により、燃料消費量と排出ガスを削減することができます。さらに、再生可能エネルギーを活用した推進システムの開発にもAIが活用されており、環境に優しい次世代船舶の実現に向けた取り組みが進んでいます。
燃料消費量削減と排出ガス抑制技術
AIを活用した船体形状の最適化や運航制御により、燃料消費量と排出ガスの大幅な削減が可能です。三菱重工業は環境配慮型の大型コンテナ船「MALS-14000CS」を設計し、船底に空気を送り込む空気潤滑システム「MALS」や高効率の船型・推進機関を採用することで、CO2排出量を従来型比で35%削減しています。また、日本郵船は海流予測情報を活用した運航最適化により、黒潮流域において燃料消費量を10%程度削減することに成功しています。さらに、最新の船舶では低硫黄燃料油タンクや排ガス浄化システム(SOxスクラバ)の搭載を考慮した設計が進められています。日本郵船、MTI、グリッド社の3社は、AIによる自動車専用船の配船計画最適化モデルの開発を進め、温室効果ガス排出量削減と業務プロセス改善の両立を目指しています。
日本の造船会社におけるAI活用事例

日本の主要造船会社では、すでに様々な形でAIの活用が進んでいます。各社は独自のAI戦略を展開し、競争力強化や業務効率化を図っています。ここでは、三菱重工業、今治造船、ジャパンマリンユナイテッドの3社におけるAI活用事例を紹介します。これらの事例を通じて、日本の造船業界におけるAI活用の現状と方向性を理解することができるでしょう。
三菱重工業のAI活用戦略
三菱重工業は、「AI×造船」戦略を積極的に推進している日本を代表する造船会社の一つです。同社は2018年に「デジタルトランスフォーメーション推進室」を設立し、AIやIoTを活用した造船プロセスの革新に取り組んでいます。特に注目されるのは、AIを活用した船体設計最適化システム「MATES」(Mitsubishi Advanced Technology of Engineering for Ships)です。このシステムでは、流体力学的特性や構造強度、建造コストなど多数の要素を考慮した最適設計を短時間で行うことができます。また、長崎造船所では「AI溶接ロボット」を導入し、熟練技術者の技術をAIに学習させることで、高品質な溶接を自動化しています。さらに、船舶の運航データを分析する「FOCUS」(Fleet Optimization Control Unified System)では、AIによる故障予測や燃費最適化を実現しています。
今治造船による生産工程自動化の取り組み
今治造船は、生産工程の自動化とAI活用による効率化に力を入れています。同社の西条工場では、「i-Factory」構想のもと、AIを活用した生産管理システムを導入しています。このシステムでは、各工程の進捗状況や資材の在庫状況をリアルタイムで把握し、AIによる生産スケジュールの最適化を行っています。また、「AI画像認識システム」を導入し、部品の寸法精度や溶接品質の自動検査を実施しています。このシステムにより、検査時間を約50%短縮し、精度も向上させることに成功しています。さらに、「Smart Yard」プロジェクトでは、AIとIoTを組み合わせた次世代造船所の構築を進めており、2025年までに生産性を30%向上させる目標を掲げています。
ジャパンマリンユナイテッドのスマートシップ開発事例
ジャパンマリンユナイテッド(JMU)は、先進的な船舶技術の開発に取り組んでいます。同社が開発した「Sea-Navi®」は、船舶の運航に関わるビッグデータを蓄積し、リアルタイムで運航・運転状況をモニタリングするシステムです。このシステムでは、船舶の性能(船体や機関特性など)を踏まえて最少燃費航路など推奨航路を船内で表示し、安全かつ経済的な航路選択を支援します。また、船上で船体や機関、海気象の現況データを監視・解析した後、陸上にデータを送信し、陸上での性能監視やデータの二次解析を行うことで長期的な就航解析が可能になります。JMUは日本財団の無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」にも参画し、自律航行機能を搭載したコンテナ船と陸上支援センターを連携させる実証実験に成功しています。さらに、環境負荷低減に向けて、省エネ技術の向上、実海域性能向上、新燃料導入などに注力し、GHG排出量削減に取り組んでいます。
AI×造船業界の未来展望と課題解決への道筋
造船業界におけるAI活用は今後さらに進化し、業界の姿を大きく変えていくことが予想されます。グローバル競争力強化や新たな船舶技術の開発など、AIが切り開く可能性は無限大です。ここでは、AI×造船業界の未来展望と、AIによる課題解決の道筋について考察します。将来の展望を理解することで、造船業界に関わる企業や個人が今後取るべき方向性が見えてくるでしょう。
グローバル競争力強化に向けたAI活用戦略
日本の造船業界がグローバル競争で生き残るためには、AIを活用した高付加価値化と差別化が不可欠です。韓国や中国などの競合国も急速にAI技術の導入を進めており、単純な技術導入だけでは優位性を保つことは難しくなっています。日本の強みである高品質と高い技術力に、AIによる効率化と革新性を組み合わせることが重要です。例えば、三菱重工業は「AI×匠の技」をコンセプトに、熟練技術者の技能をAIに学習させ、高度な自動化と品質向上を両立させる戦略を展開しています。また、日本海事協会(ClassNK)を中心に、業界横断的なAIデータプラットフォーム「Maritime Data Bank」の構築が進められており、各社のデータを共有・活用することで、業界全体の競争力強化を図る取り組みも始まっています。
スマートシップや遠隔操縦技術の可能性
AIの進化により、「スマートシップ」や「自律航行船」など、これまでにない船舶の開発が進んでいます。日本財団が主導する「無人運航船プロジェクト」では、2025年までに沿岸域での自律航行船の実用化を目指しています。このプロジェクトには、三菱重工業やジャパンマリンユナイテッドなど主要造船会社も参加しており、AIによる航行制御や障害物回避、最適航路選定などの技術開発が進められています。また、NYK(日本郵船)とJMUが共同開発している「Remote Support System」では、陸上からの遠隔操縦・監視技術の実用化が進んでいます。このシステムでは、AIが船舶の状態を常時監視し、異常を検知した場合は陸上のオペレーターに通知するとともに、最適な対応策を提案します。これらの技術が実用化されれば、乗組員の負担軽減や安全性向上、運航コスト削減などの効果が期待できます。
AI導入を成功させるために必要な体制づくり

AIの導入は技術的な側面だけでなく、組織体制や人材育成、データ基盤の整備など多角的な取り組みが必要です。特に造船業界のような伝統的な産業では、デジタル化やAI導入に対する組織的な準備が重要になります。ここでは、AI導入を成功させるために必要な体制づくりについて解説します。これらのポイントを押さえることで、AI導入の失敗リスクを低減し、効果を最大化することができるでしょう。
導入前に考慮すべきポイント
AI導入を成功させるためには、事前の準備と計画が不可欠です。まず重要なのは、AIを導入する目的と期待する効果を明確にすることです。「AIを導入すること自体が目的」になってしまうと、効果的な活用ができません。三菱重工業では、AI導入前に「デジタルトランスフォーメーション委員会」を設置し、各部門の課題とAI活用の可能性を詳細に分析した上で導入計画を策定しています。また、AI導入の範囲や段階的なアプローチも重要で、一度にすべての工程にAIを導入するのではなく、効果が見込める部分から段階的に導入することが成功の鍵となります。さらに、AI導入に伴う業務プロセスの変更や組織体制の見直しも必要です。ジャパンマリンユナイテッドでは、AI導入に合わせて「デジタル推進部」を新設し、従来の組織構造を見直すことで、AIの効果的な活用を実現しています。
必要なスキルセットと人材育成
AI導入の成否を左右する重要な要素の一つが、適切な人材の確保と育成です。造船業界では従来、機械工学や造船工学の専門家が中心でしたが、AI導入に伴い、データサイエンスやAI技術に精通した人材も必要になります。三菱重工業では、既存の技術者に対するAI研修プログラム「Digital Academy」を開設し、年間約200名のAI人材を育成しています。また、外部からのAI専門家の採用も積極的に行っており、2020年からの3年間で約100名のAI専門家を新たに採用しました。さらに、大学や研究機関との連携も重要で、今治造船は東京大学や大阪大学と共同でAI研究プロジェクトを立ち上げ、最新のAI技術の開発と人材交流を行っています。
データインフラ整備とシステム統合
AIの効果を最大化するためには、質の高いデータの収集と管理が不可欠です。造船所内の各種センサーやIoTデバイスからのデータ収集システムの整備、データの標準化、データウェアハウスの構築などが必要になります。ジャパンマリンユナイテッドでは、「JMU Data Platform」を構築し、設計データ、製造データ、運航データなど様々なデータを一元管理しています。また、既存のシステムとAIシステムの統合も重要な課題です。多くの造船所では、設計システム、生産管理システム、品質管理システムなど複数のシステムが個別に運用されていますが、これらをAIプラットフォームと連携させることで、データの流れをスムーズにし、AIの効果を高めることができます。三菱重工業では、「MHI Digital Twin」構想のもと、各システムの統合とデジタルツイン化を進めており、設計から製造、運航までのデータを一貫して活用できる環境を整備しています。
AI開発とエージェント提供がもたらすビジネス機会
造船業界におけるAI活用は、単に既存の業務を効率化するだけでなく、新たなビジネスモデルや市場を創出する可能性を秘めています。特にAIエージェントの提供や、開発したAI技術の外部展開などは、新たな収益源となる可能性があります。ここでは、AI開発とエージェント提供がもたらす新たなビジネス機会について探ります。造船業界の未来を考える上で、これらの新たな可能性は重要な視点となるでしょう。
新しいサービスモデルとしてのAIエージェント提供
造船会社が開発したAI技術を、外部にサービスとして提供する新しいビジネスモデルが生まれています。例えば、三菱重工業は自社開発した3D船舶エンジニアリングシステム「MATES」を、他の造船会社や設計事務所に提供しています。このシステムは30年以上の歴史を持ち、すでに約30の造船所や設計・エンジニアリング事務所で活用されています。MATESは基本設計から生産設計までの作業をサポートし、設計時間の短縮と製品品質の向上を実現します。また、三菱重工業は2023年10月に「ΣSynX Supervision」というリモート監視サービスの提供を開始し、産業プラントや輸送システムなどの社会インフラをデジタルサービスプラットフォームで包括的に支援しています。このサービスは、CO2回収システムや輸送システムにすでに組み込まれており、設備の遠隔監視や予測保全技術による安定運用をサポートしています。
製造業全体への横展開可能性と市場拡大予測
造船業界で開発されたAI技術は、他の製造業にも応用可能なものが多く、大きな市場拡大が期待されています。例えば、溶接や組立などの製造技術、大型構造物の設計最適化技術、生産スケジューリング技術などは、建設業や重機製造業、航空宇宙産業などにも横展開が可能です。三菱重工業は衛星搭載型のAIベース物体検出器「AIRIS」を開発し、2025年度に小型実証衛星「RAISE-4」に搭載して軌道上実証を行う予定です。市場調査会社の調査によれば、製造業向けAIソリューション市場は2024年の53.2億ドルから2030年までに年平均成長率46.5%で拡大すると予測されています。また、別の調査では2023年の38億ドルから2028年には244億ドル、2033年には1,561億ドルに達するとの予測もあり、製造効率を最大20%向上させる可能性があります。
FAQ:AI×造船に関するよくある質問

ここでは、AI×造船に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。造船業界におけるAI活用について、基本的な疑問から具体的な事例まで幅広く解説します。これらの情報が、造船業界でのAI活用を検討する際の参考になれば幸いです。
日本でAIを活用している三大造船会社はどこですか?
日本でAIを積極的に活用している三大造船会社は、三菱重工業、今治造船、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)です。三菱重工業は「MATES」などの設計最適化AIや「AI溶接ロボット」などの製造自動化AIを開発・導入しています。今治造船は「i-Factory」構想のもと、生産管理や品質検査にAIを活用しています。ジャパンマリンユナイテッドは「J-Smart Ship」など、スマートシップ開発にAIを活用しています。これらの会社は、それぞれ異なる強みを持ちながらも、AI技術を活用して国際競争力の強化を図っています。
AIが造船業界にもたらす最大のメリットは何ですか?
AIが造船業界にもたらす最大のメリットは、人手不足の解消と生産性向上、そして高付加価値化による国際競争力の強化です。造船業界は熟練技術者の高齢化と若手人材の不足という課題を抱えていますが、AIによる自動化や技術支援により、少ない人員でも高い生産性を維持することが可能になります。また、AIによる最適設計や品質向上は、環境性能や燃費性能に優れた高付加価値船の開発を可能にし、価格競争だけでなく技術力での差別化を実現します。さらに、AIによる運航支援や予防保全などのサービス提供は、新たな収益源となり、造船会社のビジネスモデル変革にもつながります。
製造業全般でAIを導入する際に注意すべき点は?
製造業でAIを導入する際に注意すべき主な点は、明確な目的設定、段階的な導入、データ品質の確保、人材育成の4点です。まず、「AIを導入すること自体が目的」とならないよう、解決したい課題と期待する効果を明確にすることが重要です。次に、一度にすべての工程にAIを導入するのではなく、効果が見込める部分から段階的に導入することで、リスクを抑えながら成功体験を積み重ねることができます。また、AIの性能はデータの質に大きく依存するため、センサーの設置やデータ収集システムの整備、データクレンジングなどのデータ品質確保が不可欠です。さらに、AI技術を理解し活用できる人材の育成も重要で、既存の技術者へのAI教育や、外部からのAI専門家の採用などが必要になります。
スマートシップとは何ですか?その具体的な機能は?
スマートシップとは、AIやIoT技術を活用して船舶の運航や保守を最適化する次世代の船舶のことです。具体的な機能としては、まず「自律航行支援」があり、AIが周囲の状況を分析して最適な航路を選定したり、衝突回避の判断を支援したりします。次に「燃費最適化」機能があり、気象・海象データや船舶の状態に基づいて、最も燃料効率の良い速度や航路を提案します。また「予防保全」機能では、各種センサーからのデータをAIが分析し、機器の故障を事前に予測して適切なタイミングでのメンテナンスを提案します。さらに「遠隔監視・制御」機能により、陸上からの船舶状態の監視や、必要に応じた遠隔操作が可能になります。
燃料効率を向上させるAI技術にはどんなものがありますか?
燃料効率を向上させるAI技術には、船体形状の最適化、運航最適化、エンジン制御最適化の3つの主要な技術があります。船体形状の最適化では、AIが流体力学シミュレーションを繰り返し行い、最も抵抗の少ない船体形状を設計します。三菱重工業の「MATES」システムでは、この技術により燃費を最大10%向上させることに成功しています。運航最適化では、AIが気象・海象データや船舶の状態をリアルタイムで分析し、最も燃料効率の良い航路や速度を提案します。日本郵船と三菱重工業の「SIMS」システムでは、この技術により燃料消費量を平均6%削減しています。エンジン制御最適化では、AIがエンジンの運転状態を常時監視し、最も効率の良い出力やタイミングで運転するよう制御します。ジャパンマリンユナイテッドの「J-MATES」システムでは、この技術により燃料消費量を約4%削減しています。
日本でAI開発に強い企業はどこですか?造船業界との関係は?
日本でAI開発に強い企業としては、NEC、富士通、日立製作所などの大手IT企業や、PKSHA Technology、Preferred NetworksなどのAIスタートアップが挙げられます。これらの企業と造船業界の連携も活発化しています。例えば、NECは三菱重工業と共同で船舶向けエネルギー需要予測システムを開発し、船舶のエネルギー消費を最適化しています。三菱重工業の「MATES」は、AIシステムではなく、30年以上の歴史を持つ船舶用3Dエンジニアリングシステムで、約30の造船所や設計事務所で活用されています。また、日本財団の「MEGURI2040」プロジェクトでは、日本郵船グループのMTIを中心に、川崎汽船、商船三井など50社以上の企業が参画し、2025年までに完全自律型船舶技術の商業化を目指しています。このように、IT企業と造船会社の連携により、革新的なソリューションが生まれています。
AI導入にはどれくらいのコストがかかりますか?中小企業でも可能ですか?
AI導入のコストは、導入規模や目的によって大きく異なりますが、中小企業でも段階的な導入により実現可能です。大規模なAIシステムの場合、開発費用は数百万円から数億円に達することもあります。経済産業省の「製造業向けAI導入ガイドブック」によれば、自社人材とAI構築用ツールでAI導入を進めた場合、AI構築用ツールに数百万円、人件費として3.0人月の工数が必要とされています。クラウドベースのAIサービスを利用する場合は初期費用を抑えることができ、小規模企業は必要最低限の機能を持つシステムを選ぶことで導入コストを抑えられます。また、国の支援制度を活用することも可能です。IT導入補助金では最大450万円、AI活用融資では最大7.2億円の融資が受けられるほか、ものづくり補助金などの制度もあります。段階的導入により初期投資を抑え、リスクを最小化しながら効果を確認できます。
今後、AIは日本の造船業界をどのように変えていくのでしょうか?
AIは日本の造船業界を、「高度な自動化と少人数化」「サービス志向のビジネスモデル」「グローバルな協業体制」という3つの方向に変革していくと予想されます。まず、AIによる自動化の進展により、造船所の作業は高度に自動化され、少ない人員で高い生産性を実現する「スマートヤード」が主流になるでしょう。三菱重工業は2030年までに無人フォークリフトシステムで数億ドル規模の売上を目指しており、自動化技術の開発を積極的に進めています。次に、船舶の建造だけでなくAIを活用した運航支援や予防保全などのサービス提供が重要な収益源となる「サービス志向のビジネスモデル」への転換が進むでしょう。三菱重工業は2021年10月にアフターサービス重視の組織に変革し、デジタル化と予測保全などのツールを活用したサービス事業の拡大を目指しています。さらに、AI開発には膨大なデータと専門知識が必要なため、造船会社同士や、IT企業、大学などとの「グローバルな協業体制」が構築されていくと考えられます。日本船舶技術研究協会(JSTRA)は、産業界・政府・学術界が一体となって新たな規制や標準化、研究開発活動を推進する統合的な海事クラスター(プラットフォーム)を提供しています。
以上、造船業界におけるAI活用について詳しく解説しました。AIは造船業界の課題解決と競争力強化の鍵となる技術であり、今後ますます重要性が高まっていくでしょう。日本の造船業界がAIを効果的に活用し、グローバル競争で再び輝きを取り戻すことを期待しています。本記事が造船業界に関わる方々や、製造業でのAI活用を検討されている方々のお役に立てれば幸いです。
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